50代の夫婦がタイに移住して2年が経ちました。
タイ移住とは直接関係ありませんが、最近読んだ本がとても面白かったので感想を書かせていただきます。
初めての書評になりますので、どうかおおらかな気持ちで読んでいただければと思います。
私の読書量は少ないです。
一番読んでいた20〜30代の頃でも年間に10冊ほどでしたが、40代に入って仕事が忙しくなるにつれ、読む時間も気力もだんだん減っていきました。
そして50代の半ばで仕事を離れ、タイに移住して2年。
今は心穏やかに過ごせる日々を送っています。
タイに来て心にゆとりが生まれたのは確かですが、だからといって読書量が増えたわけではありません。
そんな中、久しぶりに手に取った一冊が、染井為人さんの『正体』でした。
人の「正体」を問う静かな衝撃
タイトルからして重いテーマを想像しましたが、実際に読み進めるうちに感じたのは「罪」と「人間性」をめぐる繊細な物語でした。
事件の加害者として追われる主人公。その逃亡の道のりで出会う人々との交流を通じて、読者は「人を信じるとは何か」「生きるとは何か」という問いに向き合うことになります。
この作品のすごいところは、主人公だけでなく、彼と関わる人々一人ひとりに“正体”があること。
立場も境遇も違うのに、それぞれが何かを抱えて生きている。
作者の描く人物たちはどこか現実的で、他人事とは思えません。

人物描写の妙──他人の中に自分を見つける
この物語には派手な展開やどんでん返しよりも、人の心の温度がしっかり描かれています。
逃亡中の主人公を助ける人、疑う人、ただ通り過ぎる人。
誰の立場も完全に正義ではなく、悪でもない。
だからこそ、読んでいる自分の心が何度も揺れ動きます。
読みながら、ふと「もし自分がこの登場人物だったら、どう行動するだろう」と考えてしまう。
この“他人事にできないリアリティ”こそ、染井為人さんの筆致のうまさだと思います。
救いのない物語の中に、かすかな希望がある
物語の結末は決して明るくはありません。
それでも読み終えた後に残るのは、ただの悲しみではなく、人間への信頼のかけらのような感情です。
登場人物たちの選択には、それぞれの「正体」としての誠実さが感じられます。
“人は変われるのか”
“過去はどこまで許されるのか”
この作品は、その問いに明確な答えを出さないまま、読者に考える余地を残します。
でも、その余白があるからこそ、読後の余韻が深く心に残るのだと思います。
物語の余韻を静かに味わいたい人へ
『正体』は、派手さよりも「静かな力」を持った作品です。
一気読みしてしまう緊張感がありながら、ページを閉じたあとにふと立ち止まってしまう。
そんなタイプの物語が好きな人には、きっと心に残る一冊になるはずです。
人の心の奥にある「正体」を静かに見つめる時間。
それは、読み終えたあともずっと続いていくような感覚でした。
久しぶりに、気づけば夜中の3時まで読みふけってしまった一冊でした。
自信を持っておすすめできる作品です。
映画化もされていますが、結末は原作とは少し異なるようです。
ぜひ観てみたいところですが、残念ながらタイでは公開される可能性は低いと思います・・・。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本職であるタイ移住に関するブログです。よろしければご覧ください。


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